北インド音楽では、チッラーと呼ばれる音楽修行があります。
40日間、音楽の修業にのみ集中するという、とても厳しい修業です。
日本では、U-Zhaanさんが”あいちトリエンナーレ”で挑戦するようで、少し前にSNSで話題になっていた気がします。
U-zhaan「あいちトリエンナーレ」で40日間のタブラ修業https://t.co/FyTTw39xc8 pic.twitter.com/xzuukmVRg8
— 音楽ナタリー (@natalie_mu) June 2, 2019
すっごくタイムリーだなと思ったのですが、グルバイが先月末からチッラーに入りました。
彼女の夢だった厳格な修行チッラーとは
チッラーに入った友人は、ロッテルダムで音楽活動をしているグルバイ(クラスメイト)です。
私がグルジと一緒にオランダに行った時には、滞在期間中ホームステイさせくれました。長年グルジの元で学んで、沢山グルジのツアーに同行して、ロッテルダムのコダーツ(音楽大学)で講師をしながら演奏活動をしています。
音楽で生計をたてている彼女の日常はとても忙しく、音楽と共に生きていながらもずっと練習不足をボヤいていました。
そんな彼女にとってチッラーは10年来の夢でした。
グルバイの始めたチッラーとは
私は厳格なルールを知らないのですが彼女が従うルールを教えてもらいました。
- お寺に参拝に行ってスタート。
- 40日間バンスリの練習のみをする(1日の練習スケジュールは事前に決めたものに従う)
- 40日間誰とも話さない。ネットも一切使わない。
とてもシンプルなルールですが、40日間、修行のみに専念するというのは本当に難しいと思います。
望んでも環境が許さないと実現しない修行
彼女は、この修行をしたいと思い始めてから実現までに10年かかりました。
金銭的にも、社会的にも、40日間籠って練習するというのはとても難しいです。特にフリーランサーである音楽家にとって、日々の連絡を断ち切るというのは、とても恐ろしいこと。会社員が休暇を取った場合には、休暇明けから必ず仕事がありますが、フリーランサーが長く音信不通になってしまうのは本当に死活問題。
すごい決心だと思います。
40日間誰とも話さないで過ごせる環境
私が彼女のプランを聞いた時、当然「私もやりたい!」とすぐに言ってしまったのですが、
1番に考えたのは、どうやったら話さないで生活できるのだろう??でした。
私はムンバイに部屋を借りているのにグルクルに滞在許可もらうのは多分難しいだろうし、デリーのグルジの家も考えたけれど、話さないで過ごすなんて絶対に無理。
自分の部屋やどこか山で籠ることも考えましたが、野菜を買いに行っても無言では無理だな、移動も無言では無理だし。と現実的な問題が山積みです。
1週間くらいなら出来るかも!と思ったけれど、たった1週間をアレンジする難しさが身に沁みました。
それでも、やっぱり音楽家は憧れる
実現する環境を整えることの難しさを考えて、そこまで辿り着いた彼女を心から尊敬しました。
先日一緒にベルギーに行った兄弟子ビベックもですが、音楽で生計を建てて、プロフェッショナルとして生きている人ほど、練習に没頭したいという気持ちが強い気がします。
私たちのグルジ(師匠)であるPt. Hariprasad Chaurasiaも、どの生徒より練習をしていることで有名です。
インド音楽は、出来ることが増えれば増えるほど、出来ないこと、知らないことが増えてしまいます。
理解が深まるほど、理解できていない膨大な先人の知恵に唖然とします。
まさに、「知らないということを知った」の繰り返しです。
その中で、知らないことを抱えながら、プロフェッショナルとして出来ることを見せている先輩演奏家たちを尊敬しています。
私の出会った音楽家の中で、偉大な演奏家ほど「自分はまだまだ」と思っていると感じます。
「私もやりたい!!」
と考えなしにグルジに話した私に、
「必要ない」
と答えたグルジ。
グルジからは、まとまった40日間の集中修業よりも、毎日の継続を続けろと指導されました。人生を通して練習してきたグルジならではの指導だと思います。
人それぞれ、出来る形は違うけれど、何よりも練習が大切なことは同じ。
「羨ましい!羨ましい!羨ましい!」
と無責任に口に出して言ってしまいますが、しっかりと非常生活の中の練習は集中したいです。
彼女とは同じグルクルにいても話せるのはまだまだ先。
彼女の40日後が楽しみで仕方ありません。
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